壁体彫刻の魅力

壁体彫刻という名称は自分にとって大変魅力的です。彫刻家を志した時は、当然平面より立体表現が好きで、立体構造の何たるかを会得したいと願って、自分は20歳代初めに粘土を手に取ったのでした。その時から立体としてモノを捉える訓練を積んできましたが、今ここにきて壁体彫刻という限りなく平面に近づいた彫刻に心が動きます。それは彫刻家辻晋堂の陶彫による作品が、時とともにしだいに平たくなり、衝立のように立ち上がって壁状になっていくのを見るにつけ、ますます彫刻が実材を生かし存在を纏うのは何故だろうと思っているからです。立体を極めると、なにか別の次元から誘われて、立体を否定しながら実際のところ立体としての存在感を高めていくのではなかろうかと考えたりもします。穴の空いた壁体彫刻は古代人の住居のようであり、悠久な時を刻んだ造形のように思えてきます。これは本当に人が作ったものだろうか、風化が齎した自然の形象ではなかろうかという錯覚に陥ります。壁には不思議な心理が働くのかもしれません。

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