人体塑造からの転位 Ⅱ

先日のブログ「人体塑造からの転位」の続きです。現在自分の彫刻作品は、ロシア人画家カンディンスキーが提唱した非対象という意味で言えば非対象でも抽象でもありません。形態の基本となる要素を抽出している点では、確かに抽象化をしているのですが、自分のイメージでは具象的な世界を描いているのです。造形する対象が人体から他のモチーフに転位したというのが正確なところだと思います。自分の学生時代は人体塑造に明け暮れていましたが、海外に出かけていったことが契機になって方向が変わりました。それでもウィーン美術アカデミーに学んでいた最初の頃は人体塑造を作っていました。ウィーンは街中にバロック彫刻があふれ、自分が作っている人体が少なくても日本より自然な状態で存在していることに伝統の重みを感じていました。逆に日本人なのに何故西洋の伝統表現をやっているのか、自分にはギリシャやルネサンス以来脈々と続く人体表現をやる必然性があるのかを考え始め、その時からウィーンでの試行錯誤が始まったと言っても過言ではありません。それが彫刻を通して自分自身と向き合った第一歩だったと述懐しています。

関連する投稿

  • 芸術家宅を訪ねる随想 「瀧口修造全集1」に収められている「ヨーロッパ紀行」の中に、ダリを訪ねた時の随想が載っています。アトリエの中の描写やダリの人柄に、ほんの少しばかり親近感が持てるような気になります。スペインの海辺のア […]
  • 「描かれた空想美術館」を読んで 昨日は何故ホルスト・ヤンセン展の回想を書いたかと言えば、今読んでいる種村季弘著「断片からの世界」にヤンセンの評論が掲載されていて、20数年前にウィーンで知った卓越した素描画家の様々な面を知ることがで […]
  • カール・コーラップの世界 ウィーン幻想派画家やフンデルトワッサーほど国際的な名声を得ていないので、カール・コーラップを日本で知ることはありませんでした。20数年前にウィーンにいた頃、コーラップのタブローや版画を多くの画廊が扱 […]
  • E・フックスの銅版画 ウィーン幻想派の画家の中で、ウィーンの街中のギャラリーに作品があるのがE・フックスの銅版画です。フックスは煌びやかな油彩画を多く描いていますが、モノクロの銅版画にも力量のある画家だと思います。フック […]
  • ウィーン美術アカデミー名作展 ウィーン美術アカデミーは母校です。とはいえ、やはり外国人である自分は学生同士の繋がりも希薄だったため、日本の学校のように胸を張って母校と言えないところがあります。でも1980年代に在籍していました。 […]

Comments are closed.