竹橋の「麻生三郎展」

先日、東京竹橋にある国立近代美術館で開催中の「麻生三郎展」に行ってきました。背景と同化した人体。混沌とした重厚な壁を見ているような麻生三郎の油彩は、人の存在を問うような世界観をもっています。灰一色に見える大きな画面にはさまざまな色彩がせめぎ合い、やがて人体の部分が浮かび上がり、それらがひとつになって濃密な空間を作り出しているのです。図録にある文章を引用すると「~略~麻生の作品では、人の姿をはっきりと見つけ出すことが難しい。見えない大きな力によって押しつぶされてしまったのだろうか。いや、そうではない。時間をかけて、じっくりと画面に対峙していると、少しずつ、人の姿は見えてくる。眼を見つけ、手を見つけ、足を見つけ…、しかし完全な人体の輪郭は、おそらく最後までつかみ取れないはずだ。そこで焦ってはいけない。そうすると、人の姿はたちまち、混沌の中にかき消えてしまうだろう。ここからは我慢比べである。完全につながらない人体が、空間の中でどのような関係をもっているかを丹念にたどっていく。そうしていると~略~何か濃厚な生のエネルギーを、名づけようのない存在そのもののエッセンスを、感じとることができるだろう。~以下略~」(大谷省吾 著)作者のリアリズム追求の姿勢は、彫刻家ジャコメッテイの油彩にも通じるものがあると感じました。困難な絵画的状況を抱えたまま旅立った麻生三郎を思わないではいられない感想をもちました。

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