竹橋の「麻生三郎展」
2010年 12月 13日 月曜日
先日、東京竹橋にある国立近代美術館で開催中の「麻生三郎展」に行ってきました。背景と同化した人体。混沌とした重厚な壁を見ているような麻生三郎の油彩は、人の存在を問うような世界観をもっています。灰一色に見える大きな画面にはさまざまな色彩がせめぎ合い、やがて人体の部分が浮かび上がり、それらがひとつになって濃密な空間を作り出しているのです。図録にある文章を引用すると「~略~麻生の作品では、人の姿をはっきりと見つけ出すことが難しい。見えない大きな力によって押しつぶされてしまったのだろうか。いや、そうではない。時間をかけて、じっくりと画面に対峙していると、少しずつ、人の姿は見えてくる。眼を見つけ、手を見つけ、足を見つけ…、しかし完全な人体の輪郭は、おそらく最後までつかみ取れないはずだ。そこで焦ってはいけない。そうすると、人の姿はたちまち、混沌の中にかき消えてしまうだろう。ここからは我慢比べである。完全につながらない人体が、空間の中でどのような関係をもっているかを丹念にたどっていく。そうしていると~略~何か濃厚な生のエネルギーを、名づけようのない存在そのもののエッセンスを、感じとることができるだろう。~以下略~」(大谷省吾 著)作者のリアリズム追求の姿勢は、彫刻家ジャコメッテイの油彩にも通じるものがあると感じました。困難な絵画的状況を抱えたまま旅立った麻生三郎を思わないではいられない感想をもちました。
関連する投稿
- 「三本の糸杉」M・エルンスト シュルレアリスムの画家マックス・エルンストは大好きな芸術家の一人です。いつもマチエールの巧みさと面白さに魅了されます。フロッタージュ(擦りだし)とグラッタージュ(削り)によって、画面が地質的であった […]
- 「池田龍雄 アヴァンギャルドの軌跡」 先日、表題の展覧会に行ってきました。神奈川県川崎市にある岡本太郎美術館は、岡本太郎ゆかりの芸術家による企画で見応えのある展覧会が多く、そのたびに見に出かけます。現在開催中の「池田龍雄 […]
- 「カンディンスキーと青騎士」展 自分にとって注目すべき展覧会です。ブログに何回となく書いているカンディンスキーは、P・クレーやシュルレアリスムの芸術家と共に自分の中に今も生きつづけている画家なのです。年刊誌「青騎士」の翻訳が白水社 […]
- 「少女が見た湖の夢」M・エルンスト 横浜美術館は自分の地元にある施設なので頻繁に訪れます。主に企画展が目的ですが、常設にも注目すべき作品が多く、常設展示会場にもよく足を運びます。自分の憧れる彫刻家イサム・ノグチの他にシュルレアリスム絵 […]
- 三連休 仕事と美術鑑賞 三連休の最終日ですが、午前中は止むに止まれぬ仕事が入っていました。結局、三連休はいずれも職場関係の仕事が半日程度あって制作がままならない状況でした。今日の午後は工房には行かず、東京の美術館を家内と見 […]
Tags: 作品, 創作, 展覧会, 画家, 芸術家
The entry '竹橋の「麻生三郎展」' was posted
on 12月 13th, 2010
and is filed under note.
You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.
Both comments and pings are currently closed.