解剖学受講の思い出

1980年から85年までオーストリアの首都ウィーンで暮らしていた自分は、都心の環状道路沿いにある国立美術アカデミーに籍をおいていました。そこの取得教科に解剖学がありました。日本の大学で彫刻を学んでいたにも関わらず、自分は解剖学を受けたことがなく、この時ばかりは興味津々で受講をしました。講義の場所は美術アカデミーではなく、医科大学の解剖学の教室でした。白い髭をたくわえた大柄な教授が、ホルマリン漬けの人体の一部を持ってきて、筋肉や骨についての説明を始めました。自分はドイツ語がところどころ聞き取れず、どうやらラテン語が混じっているらしいことがわかって、単位の取得が危ぶまれる状況でした。その分デッサンは集中して多量にやっていて、口頭試験の際にそのデッサンを見せて単位をいただきました。その講義の中で印象的だったのは教授の脱線した話でした。「学生諸君が親になった時、我が子に靴下を履かせるとしよう。解剖学を学んでいれば、骨の仕組みがわかって、靴下を履かせるときに役立つものだ」というセリフに思わず顔がほころんだのを今でも思い出します。

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