横浜の「田渕俊夫展」

同じ日本画家と言えど加山又造と田渕俊夫はまるで異なる個性を持った大家と言えます。同じ水墨画でも加山芸術が岩肌に打ちつける波濤のような華麗さがあると思えば、田渕芸術は静寂な森林や草原に爽やかな風を送る微細な世界観があります。しかも墨の濃淡だけで表現された鬱蒼と繁る木々の美しさ。いつぞやのテレビで紹介された投影機材を使った構図に、墨のひと筆ひと筆を丹念に入れていく気が遠くなるような作業。そうした描写の蓄積が、やがて大きな世界を作り、画面から潤んだ空気が流れ出してくるような味わいがあります。「田渕俊夫展」は横浜のデパートで開催されていますが、会場に一歩踏み込むとデパートの喧騒は忘れて、智積院講堂の襖に収まる予定のきりりとした世界が立ち現れて心が洗われます。以前から屏風には注目してきましたが、今回の展覧会で襖絵の面白さにも心が動かされました。

関連する投稿

  • 再開した展覧会を巡り歩いた一日 コロナ渦の中、東京都で緊急事態宣言が出され、先月までは多くの美術館が休館をしておりました。緊急事態宣言は6月も延長されていますが、美術館が漸く再開し、見たかった展覧会をチェックすることが出来ました。 […]
  • G・クリムトからE・シーレまで 国立新美術館で開催中の「ウィーン・モダン」展には、「クリムト、シーレ […]
  • 町田の「西洋の木版画」展 先日、東京都町田市にある町田市立国際版画美術館で開催中の「西洋の木版画」展に行ってきました。私は学生時代に彫刻を専攻しながら、興味関心をもって試してきた技法が木版画でした。ドイツ表現派のざっくりとし […]
  • 目黒の「キスリング展」 先日、東京目黒にある東京都庭園美術館で開催されている「キスリング展」を見に行ってきました。まとまったキスリングの油彩を見たのは実は私は初めてだったように思います。キスリングは、エコール・ド・パリを代 […]
  • 週末 個展終了して美術館巡りへ 昨日、ギャラリーせいほうでの私の個展が終了しました。反省はいろいろありますが、ともあれホッとしたことは事実です。個展開催中は自分が会場にいなくても気がかりでなりませんでした。やはり終わってみると一抹 […]

Comments are closed.