「仮面の迷路歩行者」を読んで

表題は種村季弘著「断片からの世界」に収められているR・ハウズナーに関する評論です。R・ハウズナーに関しては、今年初めのブログ(07.1.19)にご本人を美術アカデミーでお見かけした時のことや絵の印象などを自分なりに書いてみました。あれからかれこれ20数年が経っています。ここでもう一度例の摩訶不思議な自画像の評論に出くわすとは思ってもみませんでした。著書の中で「きちんとした目立たない服装をして市民生活の無名性の中にあらゆる個性を消去してしまった一人の男」がハウズナーで「タブローにおける執拗な自我への固執は、そのまさに任意のウィーン市民というほかない、実生活上の非個性的な外見とあまりに際立った対照をなしているのだ」と綴られています。特異な仮面性をもった画風で知られるハウズナーは、外見は一般的な市民で、まるで画業とは無縁であるかのようにしているという見解です。自分もウィーン美術アカデミーでハウズナー教授をお見かけした時には確かに普通の人という感じをもちました。この人のどこにあんな幻想的世界が潜んでいるのかと思い、むしろ外見そのものが芸術家然としている人より、隠された深い世界を感じて、これもハウズナーの演出なのではないかと勘ぐったほどです。また別の機会に取り上げてみたい画家の一人です。

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