「ルル」表現主義によるオペラ

ウィーン滞在が5年に及び、その間暇に任せてオペラをほとんど毎晩観ていました。パンフレットは百冊を超えました。だんだん音楽が楽しくなっていき、一端の音楽評論家よろしく今晩のオペラはどうのこうのと人と喋れる自分が信じられないほどでした。そんな自分が理解しようと努めていたのがベルクのオペラでした。20世紀初頭に現れた表現主義。美術ではとっくに理解し、むしろ古臭く感じていた様式が、こと音楽になるとなかなか楽しめる状態にはなっていませんでした。心理を捉えて歪ませた舞台に、鋭く切り込む音響。世紀末的なドロドロしたドラマ。より現代に近いと感じながらも、今も前世紀のオペラにホッとできる自分がいました。美術の表現主義は充分楽しめるのに、自分の音楽に対する時代遅れを何とかしたいものだと思っていました。

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