「フィデリオ」の灰色の壁

20数年前に住んだウィーンで爪に火を点す生活をしていた自分の楽しみはオペラの立ち見でした。ベートーベン作曲によるオペラ「フィデリオ」は、ストーリーが分かりやすく音楽も胸を打つものがあったので、何回も観ています。男装した主人公が無実の罪で捕らえられていた夫を探すドラマで、場面はすべて刑務所でした。自分の生育暦の中に音楽的な環境はなかったものの美術的な環境は多少あったので、自分が音楽よりも好んで見ていたのは舞台装置でした。刑務所の無造作な壁に照明が当たり、囚人たちがぞろぞろと外に出てくるシーンがとても美しく、群集劇がまるで一幅の絵画のように感じました。舞台に立てられた灰色の壁がドラマを雄弁に語っているようでした。

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