バザールのキリム商談記

1985年夏にウィーンからイスタンブールへバスで深夜に乗りつけて、閉まったホテルの玄関前に野宿した後、バザールに見物に行きました。イスタンブールは混沌とした賑やかな街でした。絨毯商は皆そろって日本語が上手なので、日本人がよく高価な絨毯を買っていくのは明白でした。例外なく私たち夫婦のところにも絨毯商が現れて、店に連れて行かれました。自分はキリムの美しさにウィーンにいた頃から魅かれていたので、これ幸いに商談に応じました。値切って買ったキリムでしたが、その時のノリで買ったようなもので、よくよく見ると気に入らない代物でした。美術をやっている者としては、どうしても許せなく後悔していると、家内が返してこようと提案しました。店に行くとチャイを飲みながら絨毯商たちが売り上げに談笑している様子でした。そこへ私たち、もう一度仕切りなおしをして欲しいと言ったものだから大騒ぎになりました。金を返せ、いや駄目だ、だったら別のものを見せろ、と散々こちらも捲くし立て、結局ランクの上のキリムを手に入れました。その後、もう一度店に行ったら、もうお前には売らないから出て行ってくれと言われました。これは一度買ったものにいちゃもんをつけたのですから、こちらのルール違反。でも混沌とした街にあって頭も心も吹っ飛んでいたので、こんなエピソードとともに満足も買うことができたのではないかと思っています。

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