版画家ビリー・ザウワー

先月のブログではクリムト、シーレ、ココシュカといったウィーンでは有名な画家のことを書きましたが、今月は個人的に関わりのあった芸術家について書こうと思います。ビリー・ザウワーは20世紀初頭に短い生涯を送った版画家です。シーレ等がいたため歴史の中に埋もれてしまった人です。自分がウィーンで暮らしていた時、人を介してザウワー夫人とお会いしました。20年以上も前の話で、しかもその時彼女は80歳を超えていましたから、今はご存命ではないと思います。一人暮らしをされていた夫人からビリーの版が新たに見つかったので、ぜひ刷り上げて欲しいと頼まれたのでした。当時、美術学校に通っていた私は版画科に行って、凸版印刷機を使って古い版を刷り上げました。ウィーンの路面電車を描いたものでした。詩情豊かなモノクロの画面から当時の生活が伝わり、夫人は版画を見るなり涙を浮かべていました。

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